財政
横浜市の財政難はなぜ?借金は減っているのに毎年300億円足りない理由

この記事の要点
- 一般会計の予算は2026年度2兆993億円で過去最大。市税収入も9,779億円の見込みで過去最高
- 借金(一般会計が対応する借入金残高)はピークの3兆9,617億円から2兆8,958億円まで減っている
- それでも予算を組み始める時点で毎年300億〜400億円足りず、2027年度以降も毎年300億〜340億円の不足が続く見込み
- ふるさと納税による市民税の流出は年373億円。10年で約12倍になった
「横浜市は財政難」という言葉はよく聞きますが、中身を見ると少し不思議な姿をしています。予算は過去最大、税収も過去最高、借金は着実に減っている。それなのに、毎年の予算編成は数百億円の「足りない」から始まります。
この記事では、横浜市の財政を市の予算資料と総務省の統計で分解し、なぜ足りなくなるのか、足りない分をどう埋めているのかを整理します。そのうえで、監視人がなぜ「削るより稼ぐ」と考えるのかを書きます。
横浜市の財政の全体像:予算も税収も過去最大
まず大きさから。横浜市の一般会計の当初予算は、2026年度に2兆993億円で、3年連続で増えて過去最大になりました(令和8年度予算案 資料編)。
2018年度に大きく増えているのは、県が負担していた小中学校の先生の給与が市に移ったため(予算資料編の注記による)で、仕事と財源がセットで移ってきた分です。
収入の柱である市税も伸びています。2024年度の決算は8,937億円で3年連続の過去最高。2025年度は9,537億円の見込み、2026年度は9,779億円を見込んでいます。
借金は減っている:市債残高と将来負担比率
「財政難」と聞くと借金が膨らんでいるように思えますが、横浜市の場合は逆です。
一般会計だけでなく、特別会計や外郭団体の分のうち一般会計が負担する分も含めた「一般会計が対応する借入金残高」は、ピークだった2003年度の3兆9,617億円から、2026年度末には2兆8,958億円の見込みまで減りました。約1兆円の減少です。
横浜市は、その年に新しく借りるお金を、その年に返す元金の範囲に収めるという独自のルール(横浜方式のプライマリーバランス)で借金を管理してきました。この残高には、一般会計のほか、特別会計や公営企業会計、外郭団体の借金のうち一般会計が負担する分も含まれています。
市の借金の重さを示す将来負担比率も、2020年度の137.4%から2024年度は114.9%へ下がっています(国が「早期に立て直しが必要」とする基準は400%)。出典は横浜市「横浜市の市政と財政運営」(2026年5月)です。
ただし注意点もあります。2026年度の市債の発行額は1,305億円で、前の年より278億円増えました。金利が上がれば、利払いの負担は増えていきます。
それでも毎年足りない:収支不足の推移
問題は借金の残高ではなく、毎年のやりくりです。横浜市は毎年9月ごろ、翌年度の予算を組み始める時点で「このままだといくら足りないか」を公表しています。
2026年度の▲400億円は、後で書く減債基金を100億円使うことを見込んだうえでの不足です。2027年度は▲307億円の試算で、市の長期財政推計では、その後も毎年▲300億〜340億円程度の不足が続く見込みです(令和9年度予算編成の当面の進め方(2026年9月))。
足りない分はどう埋めているのか
2026年度の予算では、▲400億円の不足を主に次の2つで埋めました。
| 埋め方 | 金額 | 中身 |
|---|---|---|
| 財源の創出 | 212億円 | 事業の見直し・廃止・効率化(市は「創造・転換」と呼ぶ) |
| 財政調整基金による年度間調整 | 200億円 | 市の貯金の取り崩しや、前年度からの繰り越し |
しかも、この▲400億円という不足額は、減債基金を100億円使うことを先に織り込んだうえでの数字です。減債基金を使わなければ、不足は約500億円だった計算になります。
減債基金は本来、市債を返すために積み立てるお金です。それを日々の支出に回す「臨時的活用」は、2022年度の200億円から2026年度の100億円まで段階的に減らしてきており、市は2030年度の予算で使うのをやめる計画です。2022〜2026年度に使った額は合計約750億円にのぼります。
財政調整基金(市の貯金)の残高は、2026年度末の見込みで514億円。翌年度に使う予定の分などを除いた実質の残高は326億円です。毎年300億円規模の不足を、この貯金で埋め続けることはできません。
なぜ財政難になるのか:出ていくお金と、出ていく税金
税収が過去最高でも足りなくなるのは、それ以上に出ていくお金が増えているからです。物価高や人件費の上昇、中学校給食や小児医療費の無償化といった子育て施策の拡充、老朽化した学校や施設の建て替えなど、支出が増える理由は積み重なっています。とくに公共施設の保全更新費は、これから長く重くなる支出です。2021年度予算では約905億円(建築486億円、インフラ419億円)でしたが、市の推計では、建物を70年以上使う長寿命化を前提にしても、2065年までの年平均で約1,700億円、今の約1.9倍が必要になります(横浜市公共施設等総合管理計画)。
もうひとつ、横浜市に特有の大きな「出口」があります。ふるさと納税です。横浜市民が他の自治体にふるさと納税をすると、その分、横浜市の個人市民税が控除されます。総務省の調査では、その控除額は次のように増えてきました。
10年で約12倍です。2026年度の373億円は、市税収入見込み9,779億円の約3.8%にあたります。控除を受けている横浜市民は約49万6,000人です(総務省 ふるさと納税に関する現況調査)。
減った税収の約75%は国の地方交付税で埋め合わされる仕組みがあり、市が受け入れる寄附(2026年度の目標は40億円)を差し引くと、実質の影響は年53億円程度と市は説明しています。それでも、市が自分で使い道を決められるお金が毎年流れ出していることに変わりはありません。
削るだけでは足りない理由
「だったら、もっと削ればいい」という意見もあります。ここからは数字をもとにした監視人の見方です。
2026年度、市は事業の見直しで212億円を生み出しました。これは小さな額ではありません。ところが不足は毎年300億円以上続く見込みです。毎年200億円を超える見直しを何年も続ければ、いずれ見直しの対象は暮らしに直結する事業に及ぶ、と監視人は考えます。実際、財政の議論になるたびに名前が挙がるのは、敬老パス(事業全体で年145億9,800万円、うち交通事業者への負担金にあてる市税が約107億円)や子育て支援です。
監視人は、財政難を理由に高齢者や子育て家庭の支援から削ることに反対です。敬老パスについては横浜市の敬老パスは年145億円で詳しく書きました。
監視人の見方:「稼ぐ」と言うなら、いくら稼ぐのかを示せ
ここからは監視人の意見です。
横浜市の財政の問題は、借金の多さではなく、毎年の収入が支出の伸びに追いつかないことです。削る努力だけで毎年300億円以上を出し続けるのは難しい、というのが監視人の見立てです。だから、収入そのものを増やすこと、つまり稼ぐ市政です。観光、企業誘致、そして山下ふ頭の使い方がその中心になります。
参考になる数字があります。横浜市がIR誘致を撤回した後、市の振り返りで示された外部検証の下振れ試算でも、IRによる市の増収は年309億〜615億円でした。IRの数字は収入の増加の見込みで、収支不足をそのまま埋められると約束するものではありません。依存症や治安の対策にかかる費用も差し引いて考える必要があります(大阪は府市の増収のうち年約55億円を、依存症対策・警察・消防などの必要経費と見積もっています)。それでも、毎年の不足と同じ桁の収入を生みうる選択肢です。監視人がIRを含めた選択肢を捨てるべきではないと考えるのは、この数字があるからです(詳しくは山下ふ頭の再開発はいつ、何ができる?)。
2026年10月に就任した原沢敦美市長も、選挙公報と公式サイトの政策で「稼ぐ力」をつけて財政基盤を強くし、減債基金に頼らない市政を掲げました。問題は中身です。観光、企業誘致、宿泊税の検討——それぞれで年に何億円の歳入を増やすのか。その数字が出てこなければ、「稼ぐ」はただのスローガンで終わります。
監視人は、2027年度の予算案(2027年1月ごろに公表)で、市長の「稼ぐ力」が具体的な金額としてどこに書かれるのかを確かめます。
よくある質問
横浜市は借金が多いから財政難なの?
いいえ。借金(一般会計が対応する借入金残高)はピークから約1兆円減っています。問題は毎年の収入が支出の伸びに追いつかず、予算編成のたびに300億〜400億円が足りなくなることです。
足りないお金はどうやって埋めているの?
2026年度は、事業の見直しで212億円、財政調整基金で200億円などを充てました。この不足額は、本来は借金返済用の減債基金を100億円使うことを前提に計算したもので、市は減債基金の活用を2030年度にやめる計画です。
ふるさと納税で横浜市はいくら損をしている?
2026年度の市民税の控除額は373億円です。約75%は国の地方交付税で埋め合わされ、市への寄附を差し引くと、実質の影響は年53億円程度と市は説明しています。
出典:横浜市 令和8年度予算案 資料編、令和9年度予算編成・組織定数編成における当面の進め方(2026年9月)、横浜市 長期財政推計、横浜市の市政と財政運営(2026年5月)、総務省 ふるさと納税に関する現況調査、横浜IRの誘致に係る取組の振り返り、2026年横浜市長選挙の選挙公報(横浜市選挙管理委員会)。
この記事は事実(出典つき)と、監視人の意見を分けて書いています。意見は「監視人の見方」の節にまとめています。数字の誤りはお問い合わせからご指摘ください。